保険に加入したら、決まった期間必ず負担しなければならない保険料。
その保険料が、どのようにして決定されているかご存じでしょうか。
保険料の決定方法は極めて複雑ですが、大まかな仕組みを知っておくと安くて質の良い保険の選び方がわかるかもしれません。
この記事では、生命保険の保険料が決定される仕組み、保険料が変動するカラクリについて詳しく解説します。
今の保険料に疑問を抱いている方、保険の節約をしたいと考えている方、必見です!
目次
保険料とは
保険料とは、保険に加入した契約者(または保険料負担者)が保険会社に対して支払うお金を指します。
保険会社は、いざというとき一定の保障を約束する代わりに、加入者に一定期間、決まった金額を支払うよう求めています。
保険料を一定期間納めないと、保険は効力を失ってしまいます(失効)。
保険会社と契約者の約束事として、保険料払込の規定は約款(やっかん)に必ず記載されています。
保険料は、大きく『純保険料』と『付加保険料』に分けることができます。
純保険料とは
純保険料は、将来の保険金支払いの財源となる部分の保険料を指し、予定死亡率、予定利率によって決定されます(予定死亡率、予定利率、そして後述する予定事業利率については、次の章で詳しく説明します)。
純保険料部分で積み立てられるお金のことを、『責任準備金』とも言います。
純保険料は、以下の2つの要素で構成されています。
- 『貯蓄保険料』 : 将来の満期保険金支払準備のために保険料積立金として積み立てられる部分の保険料
- 『危険保険料』 : 死亡保険金のために利用される部分の保険料
つまり、純保険料は、将来保険加入者に戻ってくるお金だと言えます。
付加保険料とは
付加保険料とは、純保険料以外の保険会社の経費に充てる部分を指し、予定事業利率によって求められます。
付加保険料は、一定の死亡率によって求められる純保険料と比べ、会社によって差が出る部分です。
付加保険料も、以下のようにさらに細かく分類することができます。
- 『予定新契約費』 : 契約の募集・締結に必要な経費(営業社員などの人件費、広告宣伝費、店舗の運営にかかる固定費など)
- 『予定維持費』 : 数十年にわたって契約の管理・維持に必要な経費
- 『予定集金費』 : 保険料の集金に関する経費
例えば、保険の外交員(生保レディ)が直接保険を販売する国内生命保険会社の商品の保険料は、予定新契約費に人件費や全国にある事務所の運営費が含まれているため、高額になる傾向があります。
一方、ネット系生保の保険料が他の商品と比べて安いのは、直接営業する社員の人件費、店舗を持つ固定費などが必要ない分、この付加保険料を低く抑えることができるためです。
保険をどのように販売するか、事務所や店舗の数などによって左右されます。
純保険料と付加保険料の割合は?
生命保険の長い歴史の中で、純保険料と付加保険料それぞれの内訳を開示した保険会社はありませんでした。
契約者は、提示された一定の金額を決まった日に支払うだけで、どれほどの金額が将来の保険金の支払いに充てられているのか知る術がなかったのです。
しかし、2008年に初めて、ライフネット生命保険株式会社が付加保険料の割合を開示しました。
純保険料部分は、どの会社も同じ標準死亡率・標準利率(後述します)を用いて求めるため、大きな差が発生しないことを考慮すると、生命保険そのものの原価が明らかにされたようなものです。
これは、生命保険にとって画期的なできごとでした。
ライフネット生命のニュースリリース(2008年11月21日発表)によると、ライフネット生命が扱う保険の付加保険料の金額は、以下の3つを合計したものです。
- 契約1件あたり250円/月
- (営業)保険料(月額250円の定額部分控除後)の15%
- 予定支払保険金・給付金の3%
具体的な契約内容を例示し、付加保険料の金額と割合を見てみましょう。
付加保険料率は、年齢・性別・契約内容によって異なります。
以上の発表をもとに、加入を検討する保険の純保険料・付加保険料のおおよその割合を求めれば、その保険が割高なのかそうでないのかを判断することができるでしょう。
ぜひ参考にしてください。
付加保険料の事後モニタリング制度
2006年4月までは、各保険会社の付加保険料は金融庁の検証が必要とされていました。
しかし、2006年4月より認可対象から外れ、『事後モニタリング制度』に移行されることになったのです。
これにより、市場における競争を通じて適正な金額を保つことが求められるようになりました。
裏を返せば、消費者の自己責任が高まったとも言えます。
つまり、付加保険料について知らない・意識しない人が損をすると言っても過言ではありません。
保険料が決まる仕組み
保険料計算は、予定死亡率、予定利率、予定事業費率によって行われます。
前述したように、予定死亡率・予定利率から純保険料を、予定事業費率から付加保険料を求めます。
3つの要素について詳しく見ていきましょう。
予定死亡率
予定死亡率とは、過去の統計をもとに性別や年齢別の死亡者数と生存者数を予測し、将来の保険金支払いに充当すべき金額を算出するために必要な死亡率です。
保険会社は、社団法人日本アクチュアリー会の『生保標準生命表』にて発表される『標準死亡率』をもとに予定死亡率を算出しています。
これは、生命保険協会の経験に基づいて作成されるため、『経験表』とも呼ばれます。
標準生命表は、男性用と女性用、そしてそれぞれの死亡保険用と第三分野保険用、合計4つの表が用意されています。
なお、生保標準生命表は、厚生労働省が発表する『完全生命表』(5年に一度発表、国勢調査に基づく)と『簡易生命表』(1年に一度発表、推計人口に基づく)とは異なります。
例えば、『生保標準生命表2018』によると、30歳男性の死亡率は0.068%。
60歳男性の死亡率は0.653%で、およそ10倍、30歳男性よりも60歳男性のほうが死亡率が高いということがわかります。
死亡率の高い人と低い人の保険料を同じにすると、保険の公平性が保たれないため、加入する年齢によって保険料の金額に差をつけているのです。
また、11年ぶりに標準死亡率の改定が行われ、医療の進歩や長寿化により、全体的な死亡率の引き下げが決定しました。
そのため、2018年4月以降販売の商品は、保険料に変動が起こると予想されています。
死亡率が低くなれば、保険会社にとって死亡保険金の支払いに備えるお金が少なくて済みますから、定期保険や収入保障保険など掛け捨ての死亡保険の保険料は下がります。
死亡率の影響を受けにくい終身保険の保険料は大きく変化しないでしょう。
反対に、医療保険やがん保険、介護保険などの生存給付型の保険は、保険料が上がることが予想されます。
保険加入を検討している方は、検討中の保険にどのような影響が生じるのかを確認しましょう。
【自然保険料方式と平準保険料方式】
年齢によって保険料が変動する点について、補足があります。
年齢による死亡率の差が大きなものであるのに、保険料の差は数倍程度にとどまるのはなぜでしょうか。
それは、『平準保険料方式』を採用しているからです。
各年齢別の死亡率に基づいて1年ごとに収支のバランスをとるよう保険料を計算する『自然保険料方式』だと、歳を重ねるごとにどんどん保険料が高くなり、高齢の契約者は重い保険料負担を強いられることになります。
これでは、標準的な家庭のニーズには合致せず、高齢になるほど保険を諦めなくてはならなくなります。
しかし、現在の保険は、保険期間中に必要な保険料の総額を保険期間で均等に割る『平準保険料方式』が一般的です。
例えば、定期保険であれば、30歳の自然保険料と40歳の自然保険料を平準化し、10年間均一の保険料を設定するのです。
この仕組みにより、高齢者になっても保険の備えを確保し続けることが可能となるのです。
予定利率
予定利率は、保険会社が契約者に約束する『運用利回り』のことです。
予定利率が高ければ、少ない保険料でより大きな返戻金が得られる(返戻率が高い)ことを示します。
つまり、保険会社が契約者から預かった保険料を効率的に運用し、資金を増やすことができれば予定利率は上がり、保険料を安く設定できます。
しかし、景気変動などの影響で資金をうまく増やせなければ、予定利率は下がり、保険料を高く設定せざるを得なくなるのです。
例えば、ある生命保険会社の終身保険(60歳払済)、死亡保険金額1,000万円の商品に、30歳男性が加入するケースで考えてみましょう。
このように、予定利率の違いが保険料の金額に大きく影響します。
さらに、払い込み保険料の総額を単純に計算すると、予定利率5.50%の場合は3,636,000円(10,100円×12ヶ月×30年)であるのに対し、予定利率1.00%だと8,622,000円(23,930円×12ヶ月×30年)となり、なんと500万円もの差が生まれるのです。
少しでも予定利率の高い時期に保険に加入すれば、それだけ支払う保険料は少なくて済むでしょう。
なお、バブル期に販売していた保険の予定利率は、現在とは比べようもないほど高い数字でした。
そのため、その時期に加入した保険は『お宝保険』などと呼ばれ、解約すると損をすると言われているのです。
何十年もかけている保険を見直しする際は、予定利率を確認し、後悔のない選択をしましょう。
さらに、2017年4月に標準利率(金融庁が各保険会社に向けて設定する予定利率の目安)が0.25%まで引き下げられました。
これは、史上最低の水準です。
標準利率が下がると、各保険会社は予定利率を下げざるを得なくなり、保険料はますます高くなることが予想されます。
<参考:標準利率の推移(金融庁 参考資料より)>
1985年4月〜1990年3月:5.50〜6.25%
1990年4月〜1993年3月:5.50〜5.75%
1993年4月〜1994年3月:4.75%
1994年4月〜1996年3月:3.75%
1996年4月〜1999年3月:2.75%
1999年4月〜2001年3月:2.00%
2001年4月〜2013年3月:1.50%
2013年4月〜2017年3月:1.00%
2017年4月〜:0.25%
予定事業費率
予定事業比率は、前述した予定新契約費・予定維持費・予定集金費の保険料に占める割合です。
保険の募集や契約の維持・管理などの経費は必ず必要なものですが、保険会社の営業努力によって引き下げることが可能な部分であり、保険会社によって差が発生する部分です。
これら3つの数字から保険料を設定する『アクチュアリー』
『アクチュアリー』という職業を耳にしたことはあるでしょうか。
確率・統計などのデータを用いて、不確定な事象を扱う数理業務の専門職、それがアクチュアリーです。
生命保険会社には、アクチュアリーが在籍しており、複雑な保険料率の設定を行っています。
また、前述した『生保標準生命表』を作成するのもアクチュアリーの仕事で、社団法人日本アクチュアリー会によって作成されています。
アクチュアリーは保険業界だけでなく、年金事業、共済事業、さらには企業の資産運用など、さまざまなフィールドで活躍しています。
保険料の内訳と用途を必ず確認しましょう
保険料の仕組みを細かく説明しました。
複雑で少し難しい部分もありますが、仕組みを知れば保険料を抑える方法が見えてきたのではないでしょうか。
保険料を安く抑えたい場合、もっとも大切なのは、複数の商品の付加保険料の比率を確認することです。
支払う保険料が、少しでも多く自分が将来受け取る保険金に充てられている保険を選びましょう。
さらに賢く保険を選びたい方は、標準利率や標準死亡率の改定前後で、各保険種類にどのような保険料の変動がもたらされるのかを考えてみてください。
ただし、安直に“付加保険料が高い保険=悪い保険”とも言えません。
直接保険会社の社員に複雑な保険の相談ができる、契約内容の確認を定期的に行ってもらえるなど、手厚いサービスが必要な方にとっては、付加保険料を支払う価値があるかもしれません。
付加保険料が少ない会社の保険は、サービスを最小限に抑えている可能性があるので、いざというときにも自分で調べて行動しなければいけません。
保険に加入するときは、何を重視するのかを自分なりに考えることが大切です。
保険料の仕組みを知って、賢く保険を選びましょう!
また、自分で保険の知識をつけることはもちろんですが、プロの意見を聞ける無料の相談窓口も活用してみましょう。
ファイナンシャルプランナー(FP)の方の、確かな知識と長い経験から、自分では気づかなかった新たな視点をもらえるかもしれません。
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